カラメル
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その街にはあまり雨が降らなかった
住人が雨嫌いで降らさなかったのだ
そこでも月は美しいとされていた
月に喩えられるような美女はいなかった
俺は一人いつも雨に降られないように
名前の分からない神の身許でぼんやり
時折祈るためにキャンドルを取る人がいた
それでキャンドルの意味を初めて知った
時々馬鹿みたいな喧嘩がしたくなって
裏通りを歩いたけどみんないい人達で
ただ化粧の匂いが肌について取れなくなる
何かから逃げようとしてみんな匂っていた
天気とは風の流れのことなのだと分かった
それを澱ませることが罪なのだと初めて知った
小さなアパートには猫が一匹いて可愛かった
俺に似てると言った女の子も今はむかし
魔法は溶けて俺はただの壮年の物書きだ
だれかのために叙情詩を書いて暮らしてる
見上げることもなくまぶたの裏に映る未来
素麺茹でるのもそろそろ終わり、夏は終わり
あなたと目が合わないことが悲しいと思う
会っても意味がないみたいで仕事が憎くなる
あの街にいた頃も俺はずっとその美しい夢を
思い描いては忘れようと努力してきた、ずっと
冷めちゃった飴みたいにきらきらして脆い恋を
もったいなくて食べられないから、あなたに