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その街にはあまり雨が降らなかった
住人が雨嫌いで降らさなかったのだ

そこでも月は美しいとされていた
月に喩えられるような美女はいなかった

俺は一人いつも雨に降られないように
名前の分からない神の身許でぼんやり

時折祈るためにキャンドルを取る人がいた
それでキャンドルの意味を初めて知った

時々馬鹿みたいな喧嘩がしたくなって
裏通りを歩いたけどみんないい人達で

ただ化粧の匂いが肌について取れなくなる
何かから逃げようとしてみんな匂っていた

天気とは風の流れのことなのだと分かった
それを澱ませることが罪なのだと初めて知った

小さなアパートには猫が一匹いて可愛かった
俺に似てると言った女の子も今はむかし

魔法は溶けて俺はただの壮年の物書きだ
だれかのために叙情詩を書いて暮らしてる

見上げることもなくまぶたの裏に映る未来
素麺茹でるのもそろそろ終わり、夏は終わり

あなたと目が合わないことが悲しいと思う
会っても意味がないみたいで仕事が憎くなる

あの街にいた頃も俺はずっとその美しい夢を
思い描いては忘れようと努力してきた、ずっと

冷めちゃった飴みたいにきらきらして脆い恋を
もったいなくて食べられないから、あなたに


自由詩 カラメル Copyright guest 2025-09-18 20:11:03
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