尋ね人
そらの珊瑚

ひらがなといくつかの簡単な漢字を覚えた頃
新聞の尋ね人の欄を読むのが日課になった

 和子 連絡してくれ 父
 正男 心配してる 母

やや太い黒い線で囲まれた
額縁の中の
それらの文字は切実な短さで
毎日入れ代わり立ち代わり
印刷されて届けられたけれど
そのあとの消息は
届けられることはなかった

産まれたばかりの小さな弟が寝ている
顔を寄せると
シッカロールが甘く匂う

そうして
眠りを妨げないくらいの声で
耳元にささやいた
彼に授けられた出来立てのなまえを





自由詩 尋ね人 Copyright そらの珊瑚 2025-09-14 22:09:26
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