回帰
月乃 猫



誰もが知る肌に
夏の落ち着きを失った季節は、
陽のわずかな傾きに
秋を告げる

沈黙をやぶる囁きに
自問自答をとめる

潮の香りは、さやけき潮の音
反射する 陽炎のひかり
銀鱗の幾多の傷は、生きている証し
それぞれの命が海遊を終える時を
迎え

確かに
素直に
思うことは、
この身の生まれ故郷は、遠い
幾千キロ先 の川瀬

野生は、
懐かしい
その一点に向けて
立ち止まることもなく
休むこともなく
息つくことも
眠りの安らかさもなく
回帰をもとめ

人生の影をみつめ 仕事を終えた人々が
最終の下りの電車に乗り込むように
帰路につく

種の保存に声のない魚の 声にならない宿命は、
いつでも
いつも
いつか
この命を次の世につなげる役目

ここには、交差点を行き交う人の群れがないのですね
くだらないことに足をとられ ころんでも
手を差し出してくれる者もいない
ただ身を刺す 氷の水

北の海の 旅路を終える魚たちのサガが、
深海の
鯨たちの唄に答える 「 時は今
アシカの群れに逃れ
南、南、、南へ 故郷へ戻れ

流れる孤独の血の、その叫びに報い

もしも到達できないなら
もしも見つけられないなら
孕む幾100の子の命は、無駄死にしない
それゆえ 目指す

昔、黄金に男たちが群がった金鉱の 小川の終焉の川瀬に
肌を許すものを探すため

いつか子供たちは、海へ そして、々
私の死骸に群がる
カモメたちの
眼をついばむくちばしの鋭さに
安堵の死は
新たな命の黎明となれ






自由詩 回帰 Copyright 月乃 猫 2025-09-14 21:35:18
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