終わらない夏
リリー

 雑木の密生する土手の外れに
 一本の柳の木が俯いて
 午後の暑熱を滲ませる貯水地の水面を
 のぞき込む
 
 鳥も来ない
 辺りに虫の音の靄る静かさ
 濃い藍藻に覆われた沼底でまだ
 蝉たちが啼いている

 にわかに目の前を
 交尾しながら飛ぶ蜻蛉が
 跳ねるように空を切って
 生い茂る水草の蔭に消えた

 薄い曇硝子が割れて
 鼻腔へ流れこんでくる
 乾いた草を撫でる陽の匂いと
 混じった強い泥臭さ
 ハッと
 沼に眩く褐色の影像へ
 眼を奪われる

 けぶっているのは私の頭なのか
 夏が、水面から
 血管の浮き出た太い両腕を
 伸べている
 口をつぐんだ空へ
 
 
 
 
 
 


自由詩 終わらない夏 Copyright リリー 2025-09-12 09:28:46
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