九月のニッコウキスゲ
山人

雨水で浸食された登山道には少しだけ草があり 
刃を石に当てぬよう、気を遣いながら刈り進むと
ヌマガヤ草原には未だニッコウキスゲの群落が残っていた
一日咲けば花は萎んで枯れゆく花
遅くとも八月には散ってしまうのに
例年にない大雪でまだ開花していた

そこを過ぎると再び石だらけの、刈り難い道となる
朝方、私を追い越していった父親と男の子に遭った
「こんにちは」
切れ長の目をした少年は、透き通る声で挨拶してくれた

七合目で作業を終え、刃を研ぐ
ヌマガヤの穂が揺れ、少しだけ秋らしくなった目指す山岳が座っている
まだ遠い

刈払い機は藪に覆いをして寝かせる
また来るから、という

三合目まで下ると再び親子がいた
「草刈機は無いの?」
不思議がる少年の言葉は
純粋以外のなにものでもなかった


自由詩 九月のニッコウキスゲ Copyright 山人 2025-09-09 06:47:02
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