焦燥
飯沼ふるい

僕は煙草を吸っていた
コンビニの庇の影 殺虫灯と踊る
虫とともに 金のないことも忘れて
吐いた煙を 月のない空を 眺めていた

遠雷だ
音もなく
暗い雲の積層が戦争のように光り
秒針の雨が ぽつぽつと降りはじめると
あっという間に町中 真空の線傷だらけだ

もうこんな時間か
そろそろ帰らないと
やがて傷口から
水のように冷たい朝日が昇ってしまう

けれど僕は煙草を吸っている
傷だらけの町に煙をかぶせ
鼠色の時間を焦がしている


自由詩 焦燥 Copyright 飯沼ふるい 2025-09-08 22:55:56
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