梨
リリー
よく冷えた梨が好き
隣席のあなたがそう言ったから
出勤前に、この梨を剥く
指先を滴るまろやかな甘い汁
一切れつまみ食いしてる間に
時計の針が進んでしまう
あわてて梨をタッパーに入れて
保冷ランチバッグに収めると
笑み人(えみびと)になれる
午後の始業チャイムが鳴る十五分前
社員食堂で昼食を済ませ
喫煙所から戻ってくるあなたの
スーツに香るハーバルノート
座席が近い人達と先に分けた梨を
二切れ残しておいた
その冷えたタッパーを差し出す私に
ぽっと明るい目元を向けて
ほころんだ唇で梨へ
手を伸ばしてくれたあなた
それだけで
やんわり浮き立つ胸の内
あなたはちっとも知らないけれど