リリー


 よく冷えた梨が好き
 隣席のあなたがそう言ったから
 出勤前に、この梨を剥く
 
 指先を滴るまろやかな甘い汁
 一切れつまみ食いしてる間に
 時計の針が進んでしまう
 あわてて梨をタッパーに入れて
 保冷ランチバッグに収めると
 笑み人(えみびと)になれる

 午後の始業チャイムが鳴る十五分前
 社員食堂で昼食を済ませ
 喫煙所から戻ってくるあなたの
 スーツに香るハーバルノート

 座席が近い人達と先に分けた梨を
 二切れ残しておいた
 その冷えたタッパーを差し出す私に
 ぽっと明るい目元を向けて
 ほころんだ唇で梨へ
 手を伸ばしてくれたあなた

 それだけで
 やんわり浮き立つ胸の内
 あなたはちっとも知らないけれど



自由詩Copyright リリー 2025-09-06 16:38:30
notebook Home