擬
塔野夏子
そこらへんに
擬似感情は転がっている
拾って
嵌め込んで
擬態する
嬉しい人に
悲しい人に
さっきは青く
こんどは赤く
めまぐるしく舞台は
移り変わる
擬似の言葉が
擬似の声で
交わされる
時に負う
擬似の傷
擬薬で
擬癒する
さっきは明るく
こんどは暗く
めまぐるしく舞台は
移り変わる
あらゆるものが
擬かれてゆく
経験も 自己も
気づけば 擬かれている
世の果てまで
時の果てまで
さっきは静か
こんどは轟音
めまぐるしく舞台は
移り変わる
終わらないmimicry
心と呼ばれるものが
舞台を 演者を擬いている
果てる時まで 心自らを
絶え間なく擬きつづけている