送り火
こしごえ

忘れていませんか
と自分に問う私を
失われた記憶の空は
いつまでも青く
青く広がっている

絶対的に 失われた存在は
二度とここに戻って来ない
これでいいんだ
と自分に言い聞かせる私を
歩いてゆくもう一人の私

この夏は
入道雲が
独り言
を言っていた
遠く果てしない

氷を入れた麦茶を二口のんで
宙を
みつめる
けれど
夏は待ってはくれない。
かなかなは死に、
こおろぎが歌うようになり、
夏の葬列の先に秋
明らかな羊雲
誰もがほんとは
忘れ去ってなんかはいない
忘れたフリをして
いずれどの道
冬の来る
季節は進む
私のいのちは現在
ここに在る愛




 ※ 初出 2025.09.04 日本WEB詩人会


自由詩 送り火 Copyright こしごえ 2025-09-04 15:29:11
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