曳航
藤原 実

夏を浪費する素足の少女たちよ

居留地の海岸で手を振り
明日 明日 また明日 と
仮借なく絵札を覆してゆく
向こう見ずな天使たち

─── ごきげんよう 波打ち際のマクベス!

と ぼくをからかいながら

《さらば夏の光よ つかの間の》
昨日は確かにおまえたちの季節だった
ぼくたちは星座表を回転させたり
堤防でマッチを擦り尽くしたり

思い出は 夕暮れの影
あしもとから ながながと伸びて
重ねられた比喩となって たそがれの街の風景に溶けてゆく

だから さよならをいうとき
影だけがぼくから離れてゆき
憧れに身を隠す

青春の形見分けを一篇の詩にして
こうして毎朝 食卓の上に置いていく ぼくは
これから一日一日 少しずつ 軽くなってゆくだろう


自由詩 曳航 Copyright 藤原 実 2025-08-23 18:11:00
notebook Home