抵抗
みぎめ ひだりめ

歩いていると
轢かれたら死ぬ車が
なんでもなく 頬を通り過ぎていた
風が肌を擦れて 痛い
土煙がつく
爪先に汚れが詰まる

家に帰って
幾つもの肉を食べた この手で
擦り寄ってきた 子猫の頭を撫でる
黄金の体毛は さわさわしてて
ビー玉みたいな目が ゆっくりと細められる
指先を滑っていく
小さく 耳が垂れている

わたしは帰ったら 手を洗う
目を瞑れば全てを 忘れてしまう
かがやく朝日が 幽霊を焼き殺す
誰かが泣いている
いつもと同じように 仕事をする
わたしは帰って 手を洗う
手を洗って わたしはようやく息をつく

鏡に映ったわたしが わたしを見ている
黒い目が 濁らずにまだ見ている
じっと わたしの目を見ている
幾つもの命を わたしは内包し
そして殺してきた
黒い星のような 目は
しかし 愛しいものを求めて
柔らかくて優しいほうへ
楔を打つように 光っている


自由詩 抵抗 Copyright みぎめ ひだりめ 2025-08-20 07:54:22
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