ゼロ地点、水晶天
ひだかたけし
黄金の虫が炎に包まれ
檻の中から飛び立った
見学していた子供達の間から
歓声が上がった
黄金の虫はドーム状の硬い天井近く迄
舞い上がりふらふら堪え揺れ
すっと力尽きコンクリートの床に
コツンと音を立て落下した
子供達の間から罵声が上がった
黄金の虫はやや生焼けに黒ずんでいて
よく見れば酷く醜く年老いていた
[残念だ、もう少しだったのに、残念だ]
死にかけている黄金の虫の声が反響し
渦を巻きながら頭蓋に木霊する
[力が足りなかった
後少しだけ 力が足りなかった
残念だ 残念だ]
気付くと、渦巻く残響の最中
黄金の虫は息絶え その骸から
鮮やかな紫の微光が
いつ終わるともなく放ち続けられていた。