ゼロ地点、水晶天
ひだかたけし

黄金の虫が炎に包まれ
檻の中から飛び立った
見学していた子供達の間から
歓声が上がった

黄金の虫はドーム状の硬い天井近く迄
舞い上がりふらふら堪え揺れ
すっと力尽きコンクリートの床に
コツンと音を立て落下した
子供達の間から罵声が上がった

黄金の虫はやや生焼けに黒ずんでいて
よく見れば酷く醜く年老いていた

[残念だ、もう少しだったのに、残念だ]

死にかけている黄金の虫の声が反響し
渦を巻きながら頭蓋に木霊する

[力が足りなかった 
 後少しだけ 力が足りなかった
残念だ 残念だ]

気付くと、渦巻く残響の最中
黄金の虫は息絶え その骸から
鮮やかな紫の微光が
いつ終わるともなく放ち続けられていた。




自由詩 ゼロ地点、水晶天 Copyright ひだかたけし 2025-08-18 13:15:38
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