華火  
月乃 猫


今宵
閃光にうばわれた
満月は雲
火は華と化し、
秒速の命を生きる
あまたな人を幸せにするため

匂いを放つ 月光のうすあかり 
遠く遥か隣り街に 山の端を染め
火の華を 見下ろす

付与された億年の惑星の時のなか
私もまた秒速の人の命を生きる


懐かしい
柔らかな草原を歩くため
あいまいな存在の意味を 手に入れる
まるでそれが生きる 仕事のように

暖かなベッドの草の褥を 背にするためなら
細いのどへ
いばらに 言葉ものみこむ 

永遠にすねた沈黙をよそおう子さえ
平然な笑い顔にかえる
それができるなら


停滞した 閉塞の世界では
囚人さながら番号を付与され
名前をうしない
理不尽でも 悲観的でも 非論理的でもない
日常を繰り返し、

どうして目的が必要ですか
どうして結末をもとめますか
歩くさきは見えるところですか
そこには 人がいますか
そこは 人のいるべきところですか
そこに 行く方法はありますか
そこには 欲しいものがありますか
それは 形がありますか
もしかしたら 不安ではないですか


希薄な夢は それに似あった喜びを負い
夏の夜の月に華火は まぶしく
山の音をさそう

そして
君の細い指の美しさに気づく
ありふれた日が 
何故か 
沈むように
記憶の中にとどまっていく





自由詩  華火   Copyright 月乃 猫 2025-08-11 19:38:41
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