夏の終わりのネリーさん
ちぇりこ。

(遠雷まだかな
(どうして?
(だってうるさいんだもん!
ネリーさんは水でできてるみたいだね
(夏、だからね
ってほら
言ってるそばから排水口に吸い込まれちゃって
夏は濡れやすいから気をつけて
U字パイプのかたちのままでネリーさん
夏のブラウスの袖口しぼって
ポタポタ小さなネリーさんで洗面器を満たすと
レディオヘッドのKID Aを初めて聴いたときのような
なんかザワザワした空間で
ネリーさんと二人っきり
(濡れやすいから
(気をつけて
(夏、だから
(ね

夏に剥き出された畦道の上にも
山の向こうの積乱雲にも
夏のブラウスの襟元が
そよと揺れている
繰り返す
まるでさざ波
繰り返して大きくなって

記憶も記録も体温も
繰り返して透明な水になる
まで
水でいたいな

ネリーさん
風の通り道に腰掛けて
お口開けて居眠りしてるよ
お口開けたまんまじゃ
ドウガネブイブイ飛び込んできても
しらないよ
花や葉っぱを食べてきた虫が
飛び込んできてもしらないよ
飲み込んじゃったら
成れるんじゃないかな
そのまんまの
夏に

(遠雷が
(聞こえてきたね
(胸まで水に浸かろうね
ネリーさんとぐるぐるまわる
世界は混沌の輪の中に
とか
まわる車輪の下で
とか言ってるうちに
ほら
アルペジオで潮が引いてゆくよ
ネリーさん夏の置き忘れた最終楽章の上
ちょこんと座って鼻歌うたう
気分良いと半音上がっちゃうからすぐにわかる
ネリーさんが得意げな顔で
調子っぱずれになると
すごい勢いで夏が終わる


自由詩 夏の終わりのネリーさん Copyright ちぇりこ。 2025-08-10 14:35:34
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