歩道橋
リリー
薄緑の歩道橋の真ん中で
さざめく街の空中で
立ち停まっている女を見た
遠目で黒い日傘の女をみつめていると
眠くなり汗がじわっと体を包む
街の建物の間を
車が川のように流れる走行音
ふと 思想は私からわいて
女の肩に触れて落ちる
歩道橋の真ん中で
街の谷間でしずかに位置をしめている
あの女は、どんな時間から
抜け出てきたのか
誰もいない無菌地帯に取り囲まれ
サラサラと乾いた砂の中を
泳ぎながら
鳴きしきっている蝉さえも
耳の奥のつめたい岸に遠ざけて
道路両脇の樹々に吹く風が
女の日傘を揺るがすと
ゆっくり歩道橋の階段をおり始めた
私の目には
昼間の熱気を引き連れる
西に傾く太陽が無数に砕かれて
路上に燃えているのに、
どこからか細いツクツクホウシの声
(ああ!動いている)
季節は、少しづつ
確かに動いているのだ
歩道で遠ざかって往く女の後ろ姿を
思わず追いかけたくなった