西成区玉出東
降墨睨白島(furusumi geihakutou)
あの夜
人の吐く唾奇の跳ねる音
どこのアスファルトの硬さも同じ
いや、あの街は違っていた
あてどなく流れ着き
落伍者に優しい街ときく
何も持たず職もなく
ひたすらに古書を売り
公園で
立木を相手に
空手や拳闘の真似事
うら若き子連れの女は
奇異に思い
令息の手を引くのだ
昼はまだいい
太陽があるから
まだ、遠くの景色が
見えるから
夜は、あの不動産屋を恨み
窓のない部屋に空いた
十字架型の穴
そこから漏れくる
月の光
美しく脆弱な光
しかし、それでは
遠くも
これから先も見えず
自分自身を抱きしめて
眠る
が、眠れぬ
いつか、また
自分が
凡庸なる労働者として
返り咲く未来に
この街の明るさや
アスファルトの硬さを
強く思い出したい