自瀆する蝸牛。
田中宏輔

屑屑せつせつと自慰に耽る雌雄同体アンドロギユヌス
人葬所ひとはふりどにて快楽を刺青するわたくし、わたくしは
──溶けてどろどろになる蝸牛。*

さもありなん。
この身に背負つてゐるのは、ただの殻ではない。
あかがねの骨を納めた骨壺インクつぼである。

湿つた麺麭パンに青黴が生へるやうに
わたくしのあつめた骨は日に日に錆びてゆく。

──死よ、おまへの棘はどこにあるのか。**

──わたくしの棘は言葉にある。
その水銀みずがね色の這ひずり跡は
緑青あをみどり色の{ルビ文字=もんじ}となつて
墓石に刻まれる。

──死の棘は罪である。***

しかり。
罪とは言葉である。
言葉からわたくしが生まれ
そのわたくしがまた言葉を産んでゆく。

自瀆する蝸牛。
屑屑せつせつと自慰に耽る雌雄同体アンドロギユヌス
両性具有ふたなりのアダム、悲しみの聖母マリアマテル・ドロローサ

日毎、繰り返さるる受胎と出産、
日々、生誕するわたくし。



*: Psalms 58.8   **: 1 Corinthians 15.55   ***: Corinthians 15.56



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自由詩 自瀆する蝸牛。 Copyright 田中宏輔 2025-08-04 20:04:56
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