緑の島
杉原詠二(黒髪)

この世に
植物以外に緑のものが
あるだろうか
緑の鳥
カメレオン
葉緑素は
愛を作る

草は否が応でも生える
草の意思に
光が答える
地球上の植物と動物の
互恵関係―
とうとい雲の
吐く息が
植物を湿らせる

どんな残酷な植物も
生命を殺そうとはしない
毒があったとしても
それは植物の咎ではない

光のどけき春の日に

ジャングルの奥深くで

白内障にかかって眼の見えない犬―
わたしの飼っていた犬が―
足を滑らせる―
いけないよ―
水の中へ―

この世に
緑が途絶えたりはしない
生命の永遠―
光の園よ
空に浮かんでいるあらゆるものが
地上を離れている
地上脱出
しかしいつか戻る
わたしの犬の魂は
どこへ行ったのだろうか
緑の草の覆う
畑の端の方に埋めたよ
川の流れを聞きながら
人の美しさよ
愛の輝きが太陽としてのぼるよ
東から
緑は悲しげに大地を覆っている
繁茂する草木に永遠の祝福を
わたしは犬の代わりに祈るよ
緑内障
緑色に覆われると
眼は見えなくなる
悲しい病をしょって
人は生きてる
緑の眼は
眼圧を高め
頭痛を引き起こし
人を圧迫する
人を超えた緑よ―
ゆらめく緑の天王星
そこにもいつか緑が芽生えるかもしれない
酸素が作られて
命が育っていくのかもしれない
地球と天王星は兄弟なのだから
命のゆらめきが宇宙空間を渡っていく
天王星はすでに観測された
いつかそこに人類が行くかもしれない
永遠へ向けて
遠く遠くへ
人は導かれるように進んでいく
この母星で生を営みながら

眼の見えない人よ悲しむな
その手や肌は人の温もりを知る
熱き血は見えねども流れている
思考は衰えたのではない
見えなくても見ることは出来る
草木が眼が見えないのと同じように
繁茂する森の一部が枯れても
全体として消えることはあり得ない
人も人々の中で
それぞれの欠損を補い合って生きるのだ
あなたの見えぬ眼は
その瞳は
わたしにはとても美しく見えるよ
あなたは優しい人間だ
とてもいい眼をしている

人の眼は生死のあわいを映す
時を超えて未来までが見える
とても不思議で大切だ
あなた方の瞳は
永遠の価値を持つ

魂の眼は
緑色の自然と
宇宙を
確かに見ているのだ
今現在

精神の眼は
モノクロームの陰を見る
陰影に映された
遺影を
眺めて
緑もやがて色を失う
色即是空
空即是色
緑の祈りよ
空の中にある色よ
移り変わりゆくことが
可能性の源泉だ

もしわたしたちが
精神を一到すれば
何事か
成らざらん

そしてやがて
仏眼が開かれる
精神の美が
妙なる価値を作り出す
永遠の美にむせび泣く
悲しき過去持つ人間たちよ

死んでしまった私の白い犬は
きっと天王星を眼にしたことがある
もう宙に帰った
わたしを天王星で待っている
わたしが天王星を見るためには
わたしの犬のように
魂の眼を開かなければならない
夜の闇の中で起こった出来事に
取り返しはつかないけれど
わたしの愛がわたしの犬に
何らかの形で今も触れているのだと思いたい

夢は開く
華のように開く
愛がとこしえに
わたしたちの宇宙のすべてを包んでいる
光は闇の中にあり
闇は光りを運ぶ
不幸があったけれど
今は幸せ
きっとみんな最後は幸せ

光の土地
三千大千世界
仏国土
Here will be a paradise

ここがあなたを迎えるための土地だよ

暑くなっていく地球よ
熱を冷まして
あなたの冷静な
生きている努力によって
大地と海が生命の住処となる

わたしたちはクールに眼差しを交し合おう
その熱き心に突き動かされながら
瞳を閉じれば何も見えない
何も見えないからあなたの身体に触れていたい
その確かさに
わたしの心臓は静かに脈を打ってる
あなたの愛を心で感じているよ
わたしのために生きてくれませんか


自由詩 緑の島 Copyright 杉原詠二(黒髪) 2025-08-02 11:01:08
notebook Home