メモ(ノートに書いた詩)
由比良 倖
*
月は毒に満ちているよう。毒の水、
流れ、パプリカに葉っぱを付けている。
インターネット? そんなもの。
僕は宇宙より大きなネットワーク。
あるとき僕は夏の波にさらわれて、
夏の子供のように遊べるだろう。
君たちは夏に値段を付けて、
爪の先で画面を見てるだけ。
みんな車を持っている。
みんな値札を持っている。
階段から降りて、僕は、ああ、
神様の遊びに身を委ねるだけ。
子供たちになって、
夏を、花のように溶けていくだけ。
*
並木道を歩いていく僕たちのように、
狂った人々の孤独の匂いを籠に集めて、
日光の無臭と、風からの隔たりを肌で舐めて、
過去の中を滑り落ちていく人たち。
*
冷たいものは血。
21世紀の赤さの中を、
換気扇のファンの下で生きている。
愛する人は花のように、
左手でお皿を洗っている。
*
ただ僕を見て、見てほしい。
愛してほしい。苦しみがほしい。
君の声が欲しい。心がほしい。
心の苦しみが欲しい。
僕を見て、僕を撫でて。
僕を捨てないで。
ひとりにならないで、ひとりにしないで。
*
英語が僕を助けてくれる。
外国語が僕を救ってくれる。
*
(外で煙草を吸う。気持ちいい。)
風が僕の血を撫でていく。
雲を出さない飛行機で空は満ちている。
毎日僕は雲を感じる。
十年という時は短すぎて、
僕は絵の中の花のように凍り付いてしまう。
僕は君を待っていた。
君に会った瞬間、君は消えてしまった。
造花みたい。水のない世界で。
さて、僕はツバメノートを持って、
風に揉まれて老いていこう。
(言葉は終わらない雨のように流れていく。)
宇宙のように。全ては一粒の雨。
(セミが鳴いている。泣いている!)
(午後六時の市内放送が流れ)
僕は何を書いたのか。
言葉は今も、宇宙の中を流れている。
(そしてここは夏の水。多分、そのことだけを書いたんだ。)