山本山
本田憲嵩
山本山、下から読んでも山本山。九歳年下の友人、山本君はとてもとても大食漢で、今日はそんな彼との映画鑑賞(映画を見る前、きっとヤツはコーラとポップコーンを絶対に注文するだろうなって思っていたら、案の定、ヤツはそれらふたつをLサイズで注文し、スクリーンを眺めながら、それらすべてを見事に完食していた)したあとに寄ったのは、郊外にある「バーガーキング」。二人で店内に入ってカウンターのメニュー表に目を通す。「日本相撲協会公認」、大相撲の番付表とまったく同じ墨の書体で書かれたその文言が思わず僕の目に飛び込んでくる。ベビーボディバーガー、直火焼、肉五枚。そのドリンクとポテトとのセットメニュー計2890円を彼はなんも躊躇いもなく注文する、山本山、上から読んでも山本山、それは第二の山本山の誕生の瞬間でもある。
「それにしてもミッションインポッシブル面白かったですねぇ」
「けれどもミッションインポにだけはならなねぇように気を付けねぇとなぁ」
一通り平らげた後、奥の方にあるトイレにむかう、その途中、テーブル席に座っていたのは、いかにもアメリカにいそうなデブ、その大きく腹の突出したオヤジのテーブルの上には超ビッグサイズのコーラとフライドポテト、さらにその隣のテーブルには夫妻がふたり、その金髪でメガネをかけた悪人顔のデブ夫のほうは、かれがおそらく独自に築きあげてきたであろうゼロカロリー理論を、かれ自身の妻に熱く熱く解説している。(今日は猛暑日で代謝が通常よりもはるかに高くなっていて、なおかつ太陽が摂取した脂肪をすべて燃焼してくれるから、この冷房の効いた店内を出てしまいさえすれば、結局食べたものは、すべて燃焼されてゼロカロリー!)
店外に出る。今日は北国であるこの地にもついに熱中症アラートが発令された。この暑さのせいなのか僕はその事実に妙な納得の仕方をする。その理由が少しだけわかったような気がしてくる。すぐ来週は給料日だ。その時には一人でこの店に赴き、「日本相撲協会公認」、大相撲の番付表とまったく同じ墨の書体で書かれたそれを今度は一人で注文してみようと思う。その時にはきっとこの北国の温度もまたほんの少しだけ上がっていることだろう。
――山本山、下から読んでも山本山。上から読んでも山本山。