重力の部屋
花形新次
お前と言う名の
質量が歪めた空間に
落ち込んだまま
俺は何十年も身動きが
取れずにいる
無表情の赤の他人が
何人も通り過ぎて行くのを
ただじっと見ているだけだった
浮かれていた季節は
血の匂いとともに
終わりを遂げ
俺はやっと
お前の重力から
解放されることを
考え始めている
既に惨めな周回遅れの
長距離ランナーに
なっていたとして
最後にもう一度
足掻いてみても
良いんじゃないか?
そう思い始めている
お前が消えてなくなったとき
光さえも失ってしまうのか
それは俺にも分からない
でも、だからと言って
このままでいても
やがて俺は何も
見えなくなってしまうに
違いないのだ
俺は俺の首に巻かれた
お前の腕を
ゆっくりと外して
お前の寝息を聞きながら
自由な夜の静寂に向かって
部屋を出て行く