古傷は夏の夜風に吹かれて
トビラ

夏の夜風は
思い出の形をした
巻き貝から吹いていて
静かな海の
やさしい波音は
地球に命が生まれたときに
落ちた涙の音を含んでいて
さわさわとゆらゆらと
秘密の中で育ったすくすくと
喜びと痛みと双子の
走る、走る、走る
浅い夢の波打ちぎわ
走り去った恋の
匂いがしたような氣がして
潮騒だけが唇の先に少し残った
あの恋を追いかける?
ううん、もういい
もう、いいんだ
ありがとう
傷ついて閉じたまぶたをまた開いて
映る星々の光を
あたたかく見つめる
宇宙の言葉で書きとめて


自由詩 古傷は夏の夜風に吹かれて Copyright トビラ 2025-07-19 22:17:40
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