One Day
ホロウ・シカエルボク
灰色の週末に憂鬱な手紙と葡萄酒、ガレージの中は半分がら空き、天道虫さえこちらに気を遣う始末、ああいい、問題ない、俺がひらひらと手を振るとようやく居心地のいい場所を探すことに夢中になった、それ以上外を眺めていてもなにひとつ愉快なことは起こりそうもなかったのでドアを閉め、鍵を掛けた、もう誰が来る予定もない、どんなだらしない暮らしをしたところで咎めるものもない、まあ、自分の暮らしはそれほどいい加減じゃないというくらいの自信はあるけれど…ステレオはプレーヤーとしては使い物にならない、ロックを沢山流す局を探しては放置する毎日、一番良かったころの―イジ―が居たころということだけど―ガンズ&ローゼスの曲が流れていた、俺は別に彼らのファンじゃない、異存のあるやつも居るだろうけど、俺にとってはそれだけのバンドだった、彼が抜けてから途端につまらなくなった、イジ―は正しい選択をした、ま、その後のソロでロン・ウッドとデュエットをしたのは失敗だったと言わざるを得ないけれど…午後早く、電話が一本入った、上手い話には違いなかったけれど、俺にはどうもピンと来なかった、ま、言われるがままに動いて流れを見守るしかない、本気で信じても駄目だし、本気で疑ってもろくなことにならない、真実なんて意外とそういうものだ、こっちの考えなんかどうだっていいし、といって慣れた流れを大きく外れるようなこともない、あとは運次第ということだ―電話を切って、カレンダーに忘れないようにメモを残す、カレンダーを見ない日はない、そんなに予定を忘れることなんてないけれど、忘れていたとしても一瞬で思い出すことが出来る、頭の中に霧がかかっていた、そういう日は割とたくさんある、二年くらい前までは流されるままに、そういう日は何をすることもなく、消化試合の様な一日を過ごすだけだったけれど、近頃は割と抗うようにしている、日中に眠ることはもったいないと思う、もちろん抗いきれずに眠ってしまうことだってあるけれど、こういうのは訓練次第だ、死ぬほど眠くてたまらない時でも、少し身体を動かしたり、洗い物を片付けたりして気分を変えながら動き続けていれば意外と起きていることは出来る、それが自分の身体にとって良いことなのか悪いことなのかはわからない、無理をせずに少し眠った方がいいのかもしれない、でもそれだと負けた気になる、心と身体は連動している、理論上正しいことをしていても、精神が納得していなければ不具合が生じる、そんなことは何度だってあった、だから、どこかに書いてあるテキストをあてにするよりは自分の心に聞いてみることにしている、そういうことを感じ続けながら生活をしていると、結局それが安定に繋がるのだということが理解出来る、一般論的なこうだからああだからではなく、自分にとってこうすることはどうなのかという部分をきちんと突き詰めなければ言い訳が多いだけの傀儡になりかねない、真実はいつもひとつではない、いくつもあるそれの中から自分にとって一番相性のいいものを選ぶということなのだ、それがつまり生きるということの具体的な解答というものになる、俺はその日も眠らずに過ごしてみることにした、ヘッドホンをつけて、デビッド・リー・ロスの賑やかなブルースを聴きながら本を読んだり詩を書いたりした、その詩はあまり俺の好みではなかったけれどよくまとまっていたので良しとした、自分だけが考える自分の詩のクオリティなんてものはたいしてあてにはならない、何の感想も見つからないような詩の方が沢山のリアクションがあったりする、本当に魂を込めた満足のいく詩だ、というものには誰も見向きもしない、なんていうのはわりと当り前のことだ、それは俺と誰かが一個一個の異なる個人である限り絶対に越えられない壁なのだろう、俺は自分の作品を通して誰かとコミニュケートすることにはそれほどの興味はないけれど、その結果は時々とても愉快だったり不愉快だったりする、まあ、でも、そんなの、皆同じようなものなんだろうな、そこからは逃れられない、宿命のようなものだ、時には詩なんか読んだことも無いし、字面以上のことについて一切考えを巡らすこともしないようなやつが俺の詩を読みに来てああだこうだとわかったような口をきいたりすることがある、そういうのは不愉快以前の問題だ、顔の周りを延々飛び続ける小蝿のような鬱陶しさだけが残り続ける、だけど―俺にはこれが本当に不思議なことなんだけど、世の中で一番多く蔓延っているのはそういう種類の人間なんだ、違う場所で違う人間に会っても、もしかしたら同じ人間なのではないだろうかと思えるほど同じような言葉ばかりを吐き散らかす、思うにあれくらいのレベルになると、感性に個性なんか存在しないんだろうなと思う、シンプル・イズ・バッド、頭を使わない人間の脳味噌の皺の数は多分同じくらいしかないんだろうさ…なんだかんだで眠らずに起きていることが出来た、夕食の準備をしよう、食べながらお気に入りのアニメを観て、明日に備えてぐっすりと眠るのさ…。