政府が進めている、「ムーンショット計画」なるものがある。これは、2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現しようというものだ。ボクが説明するよりも、内閣府のサイトのアドレスを貼っておくので、興味のある方は是非そちらを参考にしてほしい。
https://www8.cao.go.jp/cstp/moonshot/sub1.html
さて計画では、「2050年までに、望む人は誰でも身体的能力、認知能力及び知覚能力をトップレベルまで拡張できる技術を開発し、社会通念を踏まえた新しい生活様式を普及させる」とあるが、「身体的能力、認知能力及び知覚能力をトップレベルまで拡張できる技術」とは、仮想空間上にある自分自身の分身(アバター)もしくは脳によるロボットの操縦である。
現時点では、ムーンショット計画や関連政策は、VR(バーチャルリアリティー)を補助的なツールとして位置づけており、強制的な「VR居住」を目指す証拠はない。しかし、技術の普及が進むにつれて、経済的・社会的な圧力によりVR利用が「事実上の標準」となるシナリオは、注意深く監視する必要がある。
近未来の政府がVRを推進する背景には、超高齢社会の課題(労働力不足、医療・介護コストの増大)への対応が明確な動機としてあると思う。しかも食料やエネルギーの枯渇にもVRなら穏やかに対応できる。もちろん、コスト削減やインフラ負担軽減が主目的となると、現実世界でのVR推進が「効率化」の名の下に、高齢者や社会的弱者の現実世界での生活支援が後回しにするリスクも生じるが‥‥。
映画「マトリックス」では、人類がAIによって仮想現実に閉じ込められ、エネルギー源として搾取されるディストピアを描いている。しかしムーンショット計画は「個人の選択肢を増やすための技術活用」が目的とされ、VRの利用は任意であり、強制されるものではないというのが前提だ。
それでもVRは高齢者の社会参加や介護負担軽減の手段として重視される筈で、映画「マトリックス」の若者中心の仮想世界とは異なり、ムーンショット計画では高齢者や社会的弱者の現実の生活を支えることを優先して、こうした最新の技術が使われるであろうことは十分予測できる。
一応、現在のVR技術は、ヘッドセットやセンサーを使った長時間の使用は眼精疲労や健康リスクがあり、食事や睡眠など現実のニーズは代替できない。VRは短時間の補助的利用‥‥主に高齢者の認知症ケア、遠隔教育が想定されており、完全な「仮想世界への移住」は技術的に非現実的であるとされている。
未来のボクたちがこのまま地球上で生き延びるのか、それともその他大勢の人々とともに「月へ行く」のかは、とても気になるところだ。