逃音のふるえ
あらい

逃音とうおんのふるえ

やけにあまいにおいがして
かぞえそこねたふうとうを 
ひっかけたほうから
あの子たちがとおったらしく
ひとりきりのうつねばかり

あの角でむせる ふわずりと呼んでいる
ひざうらに落ちていた ひかりびらが滲んで
喉から流れていく、ゆびきりの鼓動のように

(とじこめるためのものだったのか

まだらにぬれる とうかたいとおい
とおいけれど とじきれないまばたき
ひそりみ/めくらぐもり/つんづみく
なづけをあきらめたものだけが
このリズムにゆれる

あるいは 読む直前の口の開きかた
石に似て やわらかい 
時間ではなく その横をなぞった
降りたたまれた逃げ水のように
記号未満のしるしとして

「それはほんとうに――」

のぼりつめるまえに
また、ゆらぐ
きえて 
きえきれず 
きえおくれたまま 
ドロとともにひびがはしる
ならない、なのない起点に。
途中でちがえた重力のふるまい、
まだ、やさしすぎる。

(ゆくえの骨は、まだぬくい

ドライアイス這いまわるの白い舌が、
子守唄のように縫いあわせる
あれ、というゆびさしがこげる、
はじめにうすく ささやかに織れた
ガラスごしの午前三時 そらのしたから

ひと呼吸のなかに剥がれた帆に、
こびりついた芽がこえをひろう。
鳥が折りたたまれていた。
噛んだ唇の外縁そとべりだけがツブサに

歩幅未満のふるえが
生まれて。曇るまえに
奥でふりはじめ、すべらせていく
そこにまく朝は、硬い
ひかりがこすっている背中に
ふいに沈んでいくあたりで

(遠回りの〝ささめきぼし〟と呼ぶことさえ


自由詩 逃音のふるえ Copyright あらい 2025-06-15 04:15:38
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