24/7ノイズ
ホロウ・シカエルボク


もしも僕の手に銃が握られていないとして、君はそれについて、僕が殺意を持っていないということになるのだろうか、だとしたらそれは凄く下らない認知の仕方だし、ひとつの結論としてとても愚かしいと僕は言わざるを得ない、そもそも殺意とは武器や暴力によってだけ語られるようなものではない、僕のようにそれを言葉として差し出す人間だっているのだから―君は目の前にあるものに囚われ過ぎる、現象はいつだって入口でしかなく、その裏に潜むものが山ほどもあるというのに…たとえば僕が広い公園の中で地面にレーズンで円を書き、奇妙な音楽に合わせて踊れば君は僕が頭のおかしい人間だと認識するだろうか、もしも少し賢ければアートだと思うかもしれないね、でもそれはもしかしたら退屈を持て余した僕が適当にやっているだけのことかもしれない、真実なんて結局のところそこに居る人間の数だけ変わる、だから僕はこう言うんだ、そう言ったものをすべて飛び越えて沢山の人間に伝わる情熱こそが真実なんだとね、君がいつも言っているように、僕は少し話をややこしくするようなところがある、でもそれは僕にとって自然なことであり、僕にとっての正直さだということなんだ、君は正直さを勘違いしているんだ、それはわかりやすさと同じものでは決してないんだよ、純粋と正義だってそうだ、純粋な人間が善行だけをし続けているなんて事実はおそらくひとつも無いんだよ、純粋さは時に残酷な殺人事件にだって成り得る、ね、僕の手に銃が握られているかどうかなんてたいした問題じゃない、警察や軍隊だって殺意もないのに銃を構えることがあるだろう、僕はすべての現実は混乱だと考えている、理に適った状況なんていうのは机の前でしか人生を謳歌したことが無い人間が言う妄想だよ、世界はそういう風には出来ていない、ラブソングがあれほど世界中を駆け巡る一方で、今でも銃や爆弾によって人々が死に続けている、待って、僕は極論を語りたいわけじゃない、その間、周辺にあるすべてのものが真実だということを言いたいだけなんだ、美しさも醜さも、希望も絶望もそこには全部ある、それはこれだけがそうだと指摘することの出来ない存在なんだ、それは気候がどうだとか、人種がどうだとか、植生がどうだとかなんていう話とはまるで関係が無く、必ずそこに存在している、僕に一つだけ言い切れることがあるとするならば、それは同時に認識され、同時に語られなければ良く出来た嘘になるだろう、これはそういう話なんだよ、もしも僕の手に銃が握られていたら、殺意など無くても僕はたとえば君に向かって引金を引くかもしれない、そして監獄の中で、殺す気は無かった、と叫ぶかもしれない、誰かが誰かを殺すたびに、精神鑑定だので責任を取れる状態なのかというようなことをするけれど、誰かを殺したりする人間がまともじゃないのはわかっていることなんだ、その命をもって償うこと以外に出来ることなんてないような気はしないか、それは殺意や責任の問題じゃないんだ、そう、だから…殺す気はなかったなんて叫ぶことには、何の意味も無いのかもしれないね、犯罪においてはシンプルでいいと思う―少し話が逸れてしまったね、僕は殺意の話をしていた、しかしそれはどこからどこまでがそう呼ばれるものなのか?殺意であると同時に愛である場合もあるだろう、同時に悲しみである場合もあるだろう、喜びなんてものももしかしたら共にあるのかもしれない、たったひとつの言葉で語り切れない、うんざりするほどたくさんの要素を含んだもの、混沌、混沌であり―それは詩情でもある、詩情は同時に理由でもある、ゲーテの様に草木や花々の美しさ、山々の清々しさを書こうという気持ちは僕には無い、けれど、だって、そんな美しい描写を含んだあの有名な物語だって、銃弾の一撃で終わるじゃないか、そう、選ぼうと選ぶまいと同じことなんだ、それは目的地に着くまでにどの道を通るのかというような程度の話なんだ、そして僕はもうその目的そのものを事細かに突き詰めることにすらもう興味は無いんだ、それは結局のところ寄り道でしかないんだってことに気付いたからさ、目的、理由、動機なんてものはもう持っているだけでいいのさ、あとはそいつらの望むままに身体を動かせばいい、もちろん、突き詰めることで得るものはたくさんあるかもしれない、そうだな、僕に関して言えば、もうその段階は終わったんだよ、これからはもうすべてのものを抱いて、延々と書き連ねていくのみさ、蝸牛の歩いたあとに残る粘液の様に、思考回路が、情熱が、或いは殺意が生きた後に残ればいい、どうしてこだわりを持つ?どうしてひとつのことだけについて語ろうとする?どうして混沌から逃れようとする?それはすべてのものを持っていけるっていう特権に他ならないんだぜ…だけどもし、そうだ、もしも僕の手に銃が握られていたとしたら、僕はいつか自分ではどうにもならなくなったときのお守りに、それを机の引出にしまうかもしれないね、時々分解して調整したり、油をさしたりしながら、もしかしたらこれがすべてを終わらせてくれるかもしれない、なんて、うっとりしたりしながらね。



自由詩 24/7ノイズ Copyright ホロウ・シカエルボク 2025-05-21 15:24:00
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