鯨捕りの歌
レタス

群青のうねりと尖った氷山をかき分け
巨大なヤツが俺を片眼で睨んだあの日から
俺は毎日1インチの縄をキリキリと絞り
玉鋼の銛を鍛えては研ぎ続け
ラム酒をあおってはヤツを呼ぶ歌を唄ってきた

ヤツは何処か遠くの海で待っている
そうだ そうだ いまはおとなしく待っていろ
俺は狙った獲物を決して逃さない
出港の時は澄みきった青空の日がいい

パイプの煙が眼に滲みる
失なうものがない俺は恐れることを知らない
群れを成さないヤツも失なうものはないだろう
待っていろ 待っていろ
この研きあげた銛で高鳴る鼓動を止めてやる

朝から東南の風が吹いてきた
空もラビスラズリのように真っ青に澄みわたり
船出には絶好なチャンスだ
帆を揚げろーっ!
船長が叫び
航海士は慣れた手つきで舵輪を回した

俺は独り舳先で銛を研ぎ
ラム酒をあおり
歌を唄いながらパイプを燻らせた



自由詩 鯨捕りの歌 Copyright レタス 2025-05-16 12:14:47
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