メモ(母の日)
はるな


スプレーばら、ひまわり、とるこききょうとガーベラで大きな花束を作った。それにあわせて百合やアルストロメリアを足したアレンジメントも。体が半分かくれるくらい大きな花束。作ったら足元に水をあたえて、こんどはワックス紙と和紙で包んでいく。くるくるまかれていくリボン。
この花材じゃ、たいしてかわいくなんないけどね。と言いながら教えてくれるベテランの男性(ふるちゃんと呼ばれている)は小柄で、でもびっくりするほど早くブーケを完成させていく。加えた煙草が燃えつきる前に。どうして、と思うくらい正確なスパイラルで、どんな風にでもちゃんと立つ。4年ぶりの花仕事で、わたしの手はすぐにひび割れてしまった。

そこは(よくある花屋と同じように)すごく狭い作業場で、おまけにストッカーと接しているのですごくさむい。繁華街のビルの一室にあるので、すぐ隣にはスナックとキャバクラとマッサージ店が並んでいる。あらゆる人が行き来する。花とオアシスで身動きもできないなかで、久しぶりに落ち着いて息ができる。あーおちつく。あーきもちいい。ばらの棘をざくざく取りながら、息ができる。ふるちゃんはだいたい30分に1本くらい煙草を吸う。そのあいだ、以前は青山やニューヨークで活けこみもしたんだ、とそのときの写真を見せてくれたりもする。いろんな結婚式の装花やブーケ、お正月のアレンジとかも。ここではやっぱ胡蝶蘭が多いけどね、やりたくねぇよ胡蝶蘭、とぶつぶつ言う。やりたくないんですねえ、そうなんですねえ、とソリダコの葉をむしって、息ができる。

12000円の花束を11こ、13000円のアレンジを3こ作って2日間がおわった(ふるちゃんはその3倍くらいつくっていた)。びしょぬれの茎を集めて刻みながら、息ができる。いくつものバケツを洗いながら、息ができる。つみあげられたオアシスを数えながら箱に戻し、息ができる。どんな花にでも触ってたら、どうすればいいかわかる。何百回も洗濯して、裾のほつれてきたエプロンを四年ぶりにつけて、作業靴を濡らして、どんな汚い路地にいても、何をしたらいいかわかる。そんな気分は久しぶりで、息ができる、ずっとここにいてもいい、と思うとき、生活は、わたしの中から姿を消している。


散文(批評随筆小説等) メモ(母の日) Copyright はるな 2025-05-11 13:00:59
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