音遊び日記
鏡文志
2025年5月6日(火曜日)
私の住んでいる地域では、雨が降っている。今日はGW最後の日
利用者サービスとして、送迎でお出かけ
私は一人で本来どこへでも行けるのだが、その力のない利用者と同じ扱いで移動拘束義務の手前、グループホームから出る送迎のみ、外へ出かけられるのだ
無力さを強要され、それでも私はそれに従い、頼んでもいない恩恵に対し、感謝の念を示さなければいけない。下手なプライドなど持ち出そうものなら、きっとこの中で生き残れはしないだろう
車が出発すると、真上からカラスが鳴く音がする
その音は、安い頭の中の遊びを告げる音『かあ』
ロッテリアに着く。
「好きなものを、注文していいよ」
と、支援者。
ロッテリアにて、ホットコーヒーとフライドポテトを頼む
コーヒーを飲む、ストローの音
それは『ジル】
障害者のグループホームにて、GW中のドライブはゴキゲンだ
「剣に負けたら、悔しいねえ」
と同じ利用者が言うので
「剣に勝つには、ペンを使う。つまり作戦を立て、法律で勝つ」
と答えると
「夢がないねえ」
と言われる
頭の中で鳴っているクエスチョンの音
それは『はて、な】
ロッテリアから帰ると、再びまた別の送迎が
今日は雨の日で利用者が暇で不満が出ると困るので、時間潰しに支援者は時間を費やす
再び出ると、今度はお昼を食べに違うメンバーと、別のファミレスへ
男だけのメンバー。女だけのメンバーと別々の行き先に分かれたようだ
車内にての、会話。好きな歌手が、マッチだと人が言うので
「私は、歌手より小説家。つまりライターが好きです」
と答える。シーン、とする車内
廃案になって消えていくギャグの灯火の音
それは『ボツ』
私は、沈黙の中を模索する魚
ただ、ダンマリと思考の海を泳ぐ
思想ある者は、理解などされない
きっと、どこへ行っても私は浮いてしまうのだろう
車内から、見る風景
思考の繋ぎ目を網で縫うように、糸から糸へと
ハサミで切るように、捨て忘れられて行く断片たち
記憶は、現在を古びさせる。そのため時に忘れていく必要が、ある
新鮮だった風景が慣れ、褪せていくことが哀しい
洗濯機に放り込まれ、かき混ぜられる 汗ばんだシャツの音
それは『じゃあ』
車内でも、私はメモを辞めない
芸術は総合知であるため、日常を脅かすぐらい生活に入り込んでくるのは仕方がない
ハッとして書き留め
核心に触れる洞察と、獲物を追うその靴音
映画のように、ドラマティック
タイプを打つ指の音
それは『タップ』
社内では、男同士で男と女の話で盛り上がる
カタツムリやナメクジが這う、壁づたい
人間も亀虫も、きっと浮気するのよ
外で降っている雨の音
それは『フリン』
昼食を食べ、清水のドリームぷらざによって色々な品物を眺め、帰宅
帰りの車内の中で、ふとした会話のきっかけから、父の悪口を言う
走馬灯のように思い出す、思い出の数々
父は私に対し、威圧的だったと思う
父は私に対し、逞しく生きていく精神論だけを教え
私の生き方は、なに一つ認めようとはしなかったと思う
この胸の苦しみや、記憶は本当に過去のものだろうか?
今も私は父と家族から受けた仕打ちの延長戦で、このグループホームに閉じ込められているように思うが
大人とは、妥協の産物だ かろうじて体裁を保ちながら心の中は皆、ボロボロのズタズタにされている
解決などない。答えだけが、風のようにこの身を吹き抜けていく
待っている間もなく、次の扉は常に開かれている
突然の出来事と、一瞬で吹き飛ぶ破片
風は激しく、命は縮みながら、それでも生きている
心をひた隠しにし、黒づくめに身を包まれた男の背中で鳴る音
それは『ドン』
車内で父の悪口を言ったことを、後でまずかったかなと思う
もう、忘れよう 忘れようと言われ自分でそう思っても発作的に怒りが立ち上ってしまう
女にとって、性欲は吐口であるそうだ
私は、長男のフラストレーションの捌け口にされ続け
その長男が放火事件の罪で逮捕されても、その被害届は誰一人にも受理されない
私もまた別の吐口を探し、見つけることでしかこの苦しみから解放されないのだろうか?
人間が人間を吐口にし、それが訴えが認められることなく受理されることでしか解決を見ないなら
獣としての人間に人間が飽き、愛がなくなることは致し方あるまい
私は多くのことを許してきた そして許すことを強要されてきた
そしてこうもまた、思うのである。
私もまた多くの人に許され、自覚的にせよ無自覚的にせよ、多くの人に許すことを強要してきたのだと
許すこと。それは、愛
数え、思い出してみよう
許されてたこと、許させたこと
許してきたこと、許させられたこと
そして、許されなかったことと、許せなかったことを!
トラウマは、私が生きてきた証
消せない思いを抱き、噛み締めて 今日もまた、今日を生きる
膨らんだ乳輪を揉みしだき、癒しを得たい その想いに応えるメスの音
それは『にゅうわ~】