curse of days
ホロウ・シカエルボク
認知されない臓腑が新しい叫びを欲しがっている、変化を求め続ける限り俺は変わらないで居られる、初めからわかっていたことだ、なにも失ってなどいない、一生を自分のまま生き続けられる人間だって中には居るってことさ、もちろん、そのことを特別美しく語るつもりなど無い、ただ俺がそういう人間だっていうだけの話さ、口先でマウントを取ったところで何になる?俺は自分が残したものでしか自分を語らない、だからそういうやり方には興味は無いんだ、とかくこの世は俗物どもが生き易いように出来ている、俺にとっては都合の悪いことに、でもそれだって初めからわかっていたことだ、状況によって生き方を変えるつもりはないってだけの話さ、多分、俺は皆が思っているより静かな人間なんだ、それも初めからね…初めから正直に、シンプルに、素直に自分を語ることは難しい、だって自分自身、そのことをよく理解して居ないからね、俺は始めはよくわかっていなかった、ただ標識のようなものはずっとあったから、それに従って歩いていただけさ、考える時間は山ほどあった、俺は考えることを放棄しなかったから、俺が俺で居るためにそれは必要なことだった、小さなころからバックグラウンドシステムのように、頭の中で疑問符を処理し続けていた、それは整理されたのかって?むしろ、より複雑に難解になっていると言っていいだろうね、ひとつだけを処理すればいいというものでは無い、それはもつれた糸のように面倒な状態になっているし、いつも同じ状態というわけでもない、こちらのコンディションの問題もある、ある時は簡単に解ける結び目が、ある時はどうしても解けない時がある、それは当然のことだ、人体が稼働し続けて成長と摩耗と退化を繰り返しているように、状況だって動き続ける、プロセスにこだわっていたら目的の半分だってこなすことは出来ない、俺がやっているのは例えばライン工なんかとは全く種類の違うものなんだ、ある程度動作が決まっているけれど、同じステージはひとつとしてないビデオゲームみたいなものだと思ってもらえばいいかな、ひとつクリアすれば次が用意される、まるで見たことのない構成が目の前に現れる、エンディングは無い、クリアし続ける限り次のステージが現れる、簡単に言うとそういうことさ、もう数十年そんなゲームを繰り返してきた、若い時には自分がどのくらいのステージに居るのかわからなくなるときもあった、誰しも最初の頃に訪れる迷子の状態だ、最初の熱が冷めたあとで、急に同じように出来なくなる、どうしていいかわからなくなる、そこで辞めてしまうものも沢山居る、でも俺は止めなかった、指先が思うように動かなくても欲求は退いてくれなかった、死に物狂いで指を動かした、そのうちまたクリア出来るようになった、情熱が終わる瞬間、そこが鍵なんだ、そこで何を手にするのか、そこで何に気付くことが出来るのか、もちろん、それは迷いの中で知らない間に手にしているものだ、そして、種が目を出して花を咲かせるように長い時間をかけてじっくりと身体に馴染んでくる、過去のことは気にしないこと、未来に目を向けること、現在の挑戦を怠らないこと、言葉にすれば簡単な話だ、でもそれを理解出来る人間はとても少ない、そして俺にはそのことが理解出来ない、俺はいつからか、自分の熱と指先を切り離すようにした、つまり、こうじゃないと思うことを止めた、そのとき勝手に生まれてくるものが正解なのだ、それがどのようなものなのかを探りながら、細い糸が切れないように手繰りながら最後まで書ききることが大事なんだ、もちろん、ただ慎重にやればいいというものでは無い、流れに乗れなければ見落としてしまうものだってある、そのとき勝手に生まれてくるものを見極めろという話だ、路面によってアクセルやハンドリングを変えるようにだ、その日の状況によって動作を決めろということだ―俺が描くものは一見するといつだって同じ無意味な羅列のように見えるだろう、だけどそこには常に変化し続けているものをとらえられるように常に神経を研ぎ澄ませてきた成果というものがある、昔と同じように書くことも出来るし、全く違うものを書くことだって出来る、やろうと思えばね、これを自慢話で片付けたいならそうしてもらっても構わない、だけどさ、もうローリング・ストーンズぐらいには長くこんなことをやり続けているんだぜ、少しくらい自慢したって構わないんじゃないか?まあそれは冗談だけどさ―もちろん冗談だ、とにかく、俺は日常生活で少し昼行燈になるくらいにこれに精神を注ぎ込んできたんだ、そしてまだもうしばらくは続けることが出来るだろう、ストイックだなんて言われることもあるけれど、ただの快楽主義者だよ、一番楽しいからこのゲームを降りないだけなんだ―周りの連中が俺のことをああだこうだ言うこともあるけれど、俺はいつだって自分に出来ることを結構上手にやり続けているだけなのさ。