夕焼けのアメンボ
本田憲嵩
失われつつあるものを思うことは、
まるで水のように渇望する、
真っ赤な炎に染まった夕焼けの光景だ、
その時になってそれは何と美しかったのだろうと、
その時になってようやく特別なかがやきを放ってくる、
普段の昼下りの平凡な太陽とはまったく違う、
それは夕焼けの赤い赤い太陽だ、
失われつつあるものを思うことは、
まるで夕焼けの水たまりの上をすいすいと泳いでいる、
それは一匹のアメンボだ、
ごくありふれていた、
あなたの、
「いってらっしゃい」や、
「おかえりなさい」、
という声も、
けっして当たり前ではなかったように、
もはや当たり前ではなくなってしまった、
以前はごくごくありふれていた虫だ、
けれども、
もしそれを失わずにすんだのなら、
それは水平線の彼方からまた再びまばゆく昇ってくる、
それはかけがいのない黄金の太陽だ、
失われつつあるものを思うことは――