帰巣本能
ねことら

退屈が積み重なったら古い地層みたいになってしまって、
その灰色のひだとひだのすきまに挟まれたまま白目をむいてる。毎日。


タイムカードを通した。接触が悪くて何回かタッチしないとチェックできない。
施設長はまだ来てない。入口のカウンターに置かれた観葉植物が枯れかけていて、水をやったりしたほうが良いのだろうと思う。でも行動に移すことはない。


窓から通りを歩く人の姿が見える。みんな一列に並んで、左から右に歩いていく。みんな駅にむかって足早にいそいでいる。


どうして人は暗い顔をして学校や会社に行くんだろう。
私は家にいてもいても飽きたりすることはないし、家にいるのに家に帰りたいと思って、急に不安になってしまって、そうして何分か何十分が経ったあと、急にいま家にいることを発見して、安心することがある。胸をなでおろす、というやつだ。
実際に、胸をなでおろしたことなんてないけど。


バンドの新譜がかっこよかったから今朝はアウトロだけちょっとハミングして、スリッパを並べて受付表を整えて、一つ一つゲームをクリアするみたいに、最低限の準備クオリティスタートを完了していく。

白っぽい町で、白っぽい顔した人がこの病院にはそぞろ入ってきて、青、赤、緑のカラフルなカプセル錠を受け取ったあと、それぞれ家に帰っていく。


みんないつだって家には帰りたいし、充実した帰宅のために遠くまで飛んでいくんだろうな。
思い思いの角度とスピードで。


スニーカーの紐はちょっとよれてたから軽く結びなおして、屈伸する。

退屈と平和。
そういえば戦争と平和ってヘミングウェイだっけ。
結局読み通したことなかったっけ。


まだ朝7時55分。家に帰るまでは7時間5分。
この引き算のスピードには自信がある。
毎日かかさない、訓練のたまものだ。









自由詩 帰巣本能 Copyright ねことら 2025-04-20 07:36:38
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