食べる
菊花紫煙

食べる
空を食べる
それにはまず 雲を食べなきゃ
雨雲を食べる
口の中が 水っぽい
雪雲を食べる
口の中が 凍るよう
赤々と燃える太陽は
さすがに食べられない あっちっちだもの
空を食べた
まずいんだか おいしいんだか

食べる
大地を食べる
それにはまず 建物を食べなきゃ
汚れた工場を食べる
口の中が 煙でいっぱい ごほんごほん
人間だらけのビルを食べる
口の中が やかましい
静かに佇む森は
大地とは別だから 食べなかった
大地を食べた
まずいんだか おいしいんだか


残さず食べなさいと 叱られた
そんなの 僕の自由じゃない?
食べられないもの
食べたくないもの
僕にだって あるんだから


食べる
季節を食べる
春は桜とうぐいすを 食べて
夏は海と山を 食べて
秋は色を変えた落ち葉を 食べて
冬は雪を 食べて
季節を食べた
次々と変わって 飽きないから
とてもおいしかった

食べる
君を食べる
かわいい唇を 食べて
ちっちゃなお手々を 食べて
すらりとした脚を 食べて
君の身体を 食べて
君を食べた
狂おしいほど 愛しているから
とてもおいしかった


本当においしかった?
おいしいはずだと
誰かから 言われたのでなくて?
食べてごらんよと
誰かから 勧められたのでなくて?


食べて
僕を食べて
もろくて弱い僕を 食べて
意地っぱりな僕を 食べて
鈍感で繊細な僕を 食べて
寂しがりやな僕を 食べて
僕を食べて ください
まずいんだか おいしいんだか

次々と変わっていくはずだけど
おいしいんだか僕には わからない
誰かに愛されているはずだけど
おいしいんだか僕には わからない

まずいんだか おいしいんだか
わからないよ
ねえ?


自由詩 食べる Copyright 菊花紫煙 2025-04-07 08:38:42
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