終りのない旅
岡部淳太郎
夢を見ていた
俺は行先のわからぬ列車に乗っていた
人々は無言で座席に座っていたが
どうも様子がおかしい
彼等乗客たちはみな
左脚か右脚のどちらかが欠けているのだ
同時に 左腕か右腕のどちらかも欠けていた
彼等はその状態のまま座席にいた
ふと この列車の行先は
どこでもないのだと思えた
いま ここ という行先に向かって
夜を疾走する列車のなかに
人々はいたのだ
その旅に終りはなかった
永遠という時とともに列車は走り
人々はそれに身を任せるしかないのだった
混沌のような怪しげな囁きが聞こえたかと思ったら
列車の運転手が大きな柄杓のようなもので
ぐつぐつと煮える釜を掻き回していた
不審に思って近寄ってみると
それは俺の脳味噌であり
運転手は柄杓でそこに小さな傷を入れようとしているのだった
俺は叫び 逃げ出そうとしたが
ふと足下を見ると左脚が欠けており
同じく左腕も欠けているのがわかった
俺はさらに叫び
そこで目が醒めた
麻痺した左腕と左脚に
鈍い痛みが広がっていて
次の瞬間には 終りがないかに見える
この病の日々のことを思った
(2025年1月)