風について
夏井椋也


今の風は何色だった?

耳のうしろで
あなたの声が聞こえた気がして
振り返ると
早咲きの桜が咲っていた

雲って風の言葉なんだっけ?

そんな気障を
言ったつもりはないと笑いながら
振り仰ぐと
空の青が滲んで見えた

春の風は
あらゆる色をあらゆる場所に置いて
逃げていく

まるであなたみたいだね

語りかけても
あなたは名前をつけようとするわたしを
振り払って
目の前の花弁を散らすばかり

風について
あなたについて
考えてしまうのはいつも

春だ



自由詩 風について Copyright 夏井椋也 2025-03-09 15:34:14
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