川にはまった言葉の泳法
菊西 夕座
言葉の通じない川に言葉がさらわれて
おととけななな、おととけななな、と笑う川
いますぐに言葉をはなしたまえと川に告げれば
おととけななな、おととけななな、と運ぶかーぜ
風でないよ、風ではない、かーーーぜ
川がはなした「風」はどうやら流されている
いますぐに言葉をもどしたまえと川に告げれば
おととけななな、おととけななな、と生きるびび
日々ではないぞ、日々ではない、びびびびびびび
川がもどした言葉はどうにも滞留している
いますぐに言葉をかえしたまえと川に告げれば
おととけななな、おととけななな、と忘れたそぶり
泳ぎに不慣れな言葉は川にもてあそばれて
おととけななな、おととけななな、と歌う日暮れ
はなしているのか、ながしているのか、川のみぞ知る
いまはもう、夕陽さえもがおととけななな、おととけななな、と沈みこむ
やがて生まれた河童が川から上がって威張るには
進化した言葉が「川葉」で陸にあがれば「河童」だと
おととけななな、おととけななな、と「進化」が笑う
河童は「大河」へ向かうけど、「退化」へすでに転じてる
おととけななな、おととけななな、転流こそが言葉の肥料
流されながら、つかまりながら、カワる世界を超えていく