こだま
海
こだま三郎は盗人だ。盗みに入る家人に扮装しては金目のものを盗んでいた。盗みに入られた村の者たちはこだま三郎を恨み殺害を企てた。こだま三郎を捕えるべく村のあちらこちらに落とし穴を作った。ある日ドサっと音がして村人が音の方へ駆けつけると落とし穴に誰かが落ちていた。続々と村人たちが集まって落とし穴を覗いた。「こだま三郎か?」村人の一人が訊ねると落とし穴の中から「こだま三郎か?」と返ってきた。村人が何かを言う度にオウム返しされて埒が明かなかった。村人が全員揃っているのを確認して、落とし穴にいるのはこだま三郎だろうと判断した。村人たちはこのまま落とし穴を埋めることにした。土を落とし穴に放り込む度に「ドサッ」っと実際の土の音とは別の声がした。村人たちは残酷になってそれを笑った。すると落とし穴の中から笑い声が聞こえてきた。村人たちは段々気味が悪くなってきた。完全に落とし穴を埋めてしまうと、声は聞こえなくなった。その日の晩に大きく地面が揺れた。村人たちは慌てて外へ出ると多くの家は倒壊した。家の下敷きになった者がいないか大声で呼ぶと同じ呼び声がどこからか聞こえてきた。村人たちはこだま三郎がまだ落とし穴の中で生きていて地震を起こしたのではないかと思った。幸い村人たちは皆無事だった。村人たちは寺から坊主を呼んでこだま三郎を埋めた場所に結界を張ってもらった。村人たちがこだま三郎の家を突き止めて家の中に入って探すと盗まれた物があった。しかし誰もが異様さに気づいた。盗まれたものは盗んだ家に置いてあった通りに配置されていたからだ。村人たちは大声を出さないようになった。うっかり大声を出すとこだま三郎がオウム返しをして地面を揺らすと考えた。今でもこだま三郎が埋められた場所には碑が建てられている。周辺の住人は代々地震を恐れて大声を出さないように暮らしている。しかしその辺りで大声を出すとこだま三郎が返事をするということがSNSでバズって人気となった。周辺の住人は取材に来たメディアに迷惑だと訴えた。そして地震への備えを徹底している。