疫、
海
某太郎は盗人だ。盗むのは村の子供たちであった。子どもを盗むと汚物を塗りたくって家に返した。するとその家の者は全員病に冒され、死んでしまった。村人たちは某太郎に憎悪した。ある家の男が某太郎を憎むあまり自殺未遂をした。書き置きには死を盗んでみろとあった。男は首を吊ろうとしていたところを近所の人々によって助けられた。某太郎は男の書き置きを盗むとパッと読んでそれを燃やした。それから男の家のそばへ行き男が出かけると男の後をつけた。川にかかる橋を男が渡りはじめた時、某太郎は距離を詰めて男を川へ突き落とした。男は溺れ、流されていった。翌日、男は下流で死体となって発見された。某太郎は男の死体を盗むと汚物を塗りたくって村の道の真ん中に転がしておいた。異臭が村中に漂い、村人たちは恐怖に慄き、しばらく家から出なかった。男の死体は腐って更に悪臭を放った。ようやく恐る恐る家から出て寺に赴き角大師のお札をいただいた村人が、額にお札を貼り男の死体を荼毘に付して無事だった。それからというもの角大師のお札が村中で流行った。某太郎は鬼門に棲んでいた。村中の者は角大師の札を家の鬼門に貼り付け、毎日平穏無事を祈った。某太郎は村中の角大師の札を盗み燃やした。するとその炎は何十倍にも膨れ上がり某太郎に引火した。某太郎は炎に包まれ焼死した。村人たちは喜んだが某次郎という盗人がいる事を知っていた。村人たちは某次郎に備えて角大師のお札を鬼門に貼り、毎日平穏無事を祈っている。