鶯谷
室町 礼

さいきん
JR鶯谷駅界隈に
老婆を愛好する若者たちが
増えて
突然死と救急車も増えて
鶯谷がかれらの聖域になってしまった
아이고!(アイゴー!)
紅顔をぱんぱんに張り詰めて
赤や青のネオンの下で
ひそひそ老婆と交渉する
若者の群れが ある
80以上じゃないとだめなどと
一丁前に能書きたれて
皺くちゃでシミだらけのおばあちゃんの
どこがいいのか
腹が立つ
さいきんとみに狂気を失った投稿作品をみて
炭酸の抜けたサイダーばかり飲んだみたいに
すこしばかり意気消沈していたわたしとしては
にわかにコーフン
して
しまった
「ポリティカル・コレクトネス」なんて叫ぶ俗人が
増えたせいで
文学から刃物のぎらつきが失せ
詩人ともあろうものが世間より倫理的になり
狂気がそとに流れ出てしまったのだろうか
しからば
凸撃せねばなるまい
電話をすると
「80は無理やけど78ならいますよ」
という中年女の声
「脚が弱ってますから、時間かかりますよ」
JR鶯谷駅裏の喫茶店で待った
杖をついた婆ちゃんが中年女の介護付きでやってきて
それ専用らしいうらぶれた和風旅館の
うらぶれた三畳ほどの個室に案内された
こういうときはもうカラダなんかどうでもええ
顔だけが命や
顔にエロスがあればいいのやけど...
う~ん ない
ない ない ない
出土した人骨の残骸のようなばあちゃん
あの最中にあの世へ他界するかもしれない
こじゃんと枯れている
お婆ちゃんさっそく布団の上に横になった
なんか若い子のエロ写真でもないですかというと
写真より音楽よ
婆っちゃんスマホを器用に操作して
歌を流しはじめた
アグネス・チャンの「ひなげしの花」
この曲を発掘するまで何度も
試行錯誤を繰り返したという
発明家なんだ
アグネス・チャン、募金事業で財をなし
ビルまで建てたからといって
おれまで勃つわけがない
おそるおそるばっちゃんの松ぼっくりのような
おまんこに手で
ふれてみる
「これ、なんだ?」と聞くと
「女性自身」と即答
ばっちゃんの手をとってわたしのちんぽに触らせ
「これ、なんだ?」と聞くと
「主婦の友」
아이고!(アイゴー!)
人生の松ぼっくり
アントニオ猪木みたく
婆っちゃんを仁王立ちに抱え
振り回し
四の字固めしたくなったけど
それじゃ殺人やんけ
ああ、
鶯谷の夜はふけて











自由詩 鶯谷 Copyright 室町 礼 2025-02-26 05:05:24
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