愚者白紙紀行
ただのみきや
狐雨みたいに
吹雪の中から日が差して
カラスかと思えば
カササギが
白く眩んだ雪原に
モザイクの影をひとつ
長い尾羽
跳ねる指先
氷の粒はからだを奏で
血は渦巻いて管を響かせる
うたた寝に沈みかけ
うわ言をつかもうと
記憶の破片で唇を切って
肌襦袢の太陽
暗転する視界
剥離した時の粉末が
ちりちりと光に焼かれ
煌めいている
こんなふうに人も
遠く目を細めたまま
胎児のように浮かび
ねじれるたび
どちらがどちらか
わからなくなるのではなく
わかったふりをやめて
鳥や魚に誘われ
荒地に深く潜んだ根から
ふたたび神話が芽吹くように
古くも新しくもなく
いつも今そこにある
名付けようもないものを
詩の中で一枚の絵のように
その仕草が音楽であるように
欠落が匂いであるように
影踏み遊びは続き
遠く離れてもここがそうで
長くかかってもいつも今で
すべて消え去り忘れられ
ただ神の記憶にのみ在り続けて
(2025年2月24日)