祭りのあと
室町 礼
名も無い荒野に
小さな篝(かがり)火だけが
いまだ燃えている
なんとまあ
いっそ全滅すればいいものを
どんな発言の末尾にも「クソ」をつけなければ
すまない男がひとり
燃え残った草葉の陰で
神に祈っているようだった
きちん手を合わせ、心を込めて
ああ、わが主イエス・キリストよクソ
罪や穢れをお祓いくださいクソ
神様のお力によりお守りくださいクソ
幸せにしてくださいクソ
男は狼炎の上がる東に向かい
深いお辞儀をした
アーメン、クソ
わたしといえば立つこともできず
かといって歩くことはなをさらできず
手をこまねいてただ見ていた
絶望を
遠くから眺める観察者のように
だれかを一瞬でも幸せにできたらそれは
凄いことだとだれかがいった
たしかにそんなことをしたような覚えがあるが
その百倍くらいだれかを不幸にしたような気もする
もし再度生まれてくるようなことがあれば
クソッタレの神よ
たった一つだけ頼みがある
ふつうに立てるような
そんな人間に生んでくれ
贅沢な願いだが
見ると足元の砂地に
わたしが掘った穴を蟻が一匹
必死で這い上ろうとしている
何気に超越者の気分で上り詰めた頃合いに
また深く穴をうがつ
するとどん底に落ちた蟻は脇目も振らず
また上りはじめた