貧乏
鏡文志
足りないということは、あるもので補うということ
そのための創意工夫をするということ
不満があるということは、満足までの道のりの楽しさがあるということ
不満なき人生は、虚しい 道のりなき人生は悲しい
待つこと 待つことなきこと
耐えること 耐えることをしなきこと
心にぽっかり雨が降る 欠乏ありて歌も出る 詩情も湧く
貧乏は、この豊かな失うものなき国において最高に贅沢だ
一人語りをする すれば一人漫談になる 想像力が豊かになり、真の落語家になる
他人は答えてくれぬ だから自分の頭で話す 頭で話しているうちに、遂に他人が自分の頭で話し出す
耳鳴りがする 幻聴さえする 頭狂いと言われても、気は誰よりも確かだ
それもその筈、心と言われるところの物語共有としての言葉を誰よりも大切に持っているのだから
若く貧乏であるということは、いっぱいの牛乳瓶に中身が空っぽの状態のようなものだ
空っぽの牛乳瓶に牛乳が入る。まだまだ入る。注げば注ぐだけ入る。満杯になる頃には愛でいっぱいだ
これが最初から入っていたら、愛で溢れ、なにも要らなくなってしまう
恋に落ちる 別に落ちなくても良い 欠乏を抱えているうちに次第に余裕と人間に奥行きが出る
不満などあれば良い 足りなければ足りないほど良い
次第に高いところから見下ろしている自分に気づく
本当は、なにも欲しくなかったのだと