水底
たもつ



交番の蓋を開けると
砂漠が広がっていた
砂漠には机が置いてあった
引き出しはすべて
取り外されていて
古い思い出は無く
新しい思い出も
もうしまえなかった
雨上がりの
虹がかかっていた
虹を育てるのは
若い警官の役目だった
蓋を閉じると
月明かりに照らされた
交番だけが残った
水底のように
深く澄んだ夜
迷い込んだ小さな魚は
おそらく何かの
花びらだった



自由詩 水底 Copyright たもつ 2025-02-13 05:19:12
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