ペトリコール
あらい

真っ昼間の電車内は風の吹く砂浜にみる
軋む椅子が形が劣るだけで、重みすら恋をする
そとを眺めるのも、瞼をとじるのも
おだやかだと云う果実はつりあって 
目にしたものを翳す 
両唇はかすかに黄昏の気味がある
手のひらをあわせて
傾斜した陸地のくぼんだ所をながれる濁り
任意の時点で立ちどまった
星座のように、量とからだに夜とした
溺死体の私がゆるくたれて齧ってしまいたくなる

古びた本を開く景色はどこか遠くのこと
また瑞々しくせん引く擦弦楽器
ドローイング。草木も、家々も、
どこかしらムダにならんでいるだけ 
反響に連鎖し、時に破綻をおこすから
まま雷雨にふれた窓ガラスをすりぬけて
とびら向こうにリテイクする雲のかたち
日傘をまわした生命現象
取り巻くはすべての見晴らし
無人の構内で天球の信号がいきてく
律義にひざまずいて
また頷き、背のびしはじめ、腰おろして
はぎれわるい紙風船でも 

ひとつひとつを切り取ってく。

 (誰も 私を みていないなら
  わたしがわたしを疑えば、
  私は私を みむきもしない。)

 なにもおきないはずがなく
 うけつけないから嘔吐いてる
 もう何日も口にしていない
 灯る陽はよいだろう
 反応が連動する回路は
 したのさきに横たわった老犬


自由詩 ペトリコール Copyright あらい 2025-02-07 18:32:04
notebook Home