吊るされた男
栗栖真理亜

誰かを赦すことが蔑みや嘲笑の的となり
誰かを許さず非難することが賞賛や奨励の対象となる

逆さまに吊るされた男が
哀れみを含んだ瞳で私を見つめた
男は足首を2本纏めて荒縄で縛られ
両腕は下にぶら下がり
白髪混じりの髪を白滝のように垂らし
口を下弦の月のように歪ませて笑っていた
(そんなにみないでくれ)
眼は男の方に釘付けになりながら
私は心の底で叫んだ
それでも男は見つめ続けている
しまいには他人を断罪することに嫌悪感を抱く行為すら
誤りであるかのような感覚に陥ってゆく

昆虫の毒針から毒が注入されたときのように
脳の底の方から微かな痺れとともに
世界は濁りを帯びて霞んでいた


自由詩 吊るされた男 Copyright 栗栖真理亜 2025-02-03 23:20:52
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