NWSF怪畸ロマン 斬魔屋カンテラ!!『水と空氣と花と』②
川崎都市狼 Toshiro Kawasaki
【ⅳ】
梅林で呑めや歌えや、はカッちやんの大袈裟であつた。たゞ梅咲き誇る早春を樂しむ、しめやかな會、となつた。酒はカッちやんの調達なので確かな品、である。お重は悦美が澄江さんにアドヴァイスされながら、惡戦苦闘して拵へた物。皆、貝原社主も含めて、幹事であるカッちやんがチャーターしたマイクロバスに乘り込み、現地に赴いた。安保さんは流石に緊張の面持ちだつたけれども、カンテラ一味は割と磊落に、自由闊達に貝原と交流した。
「で、私にお話しつて何でせう?」とカンテラ。「それがですな、貴方の自慢の剣で、叩き斬つて貰ひたい男が一人、をるのです」と貝原。カ「…私は所謂暗殺屋ではないつて、ご存知ですか」貝「いやいや、その男は【魔】に取り憑かれてゐるも同然なのです。身内の恥を曝すやうですが、その男とは私の従弟で、中野坂上に住んでをる。その家が、惡臭ふんぷんたる『ゴミ屋敷』でね。近隣の迷惑ともなるし、何せ私の一族の汚點だ」カ「はゝあ」貝「區からも退居勧告が出てをるが、民事訴訟に持ち込みましてな。何とも不潔なので、-金木カナギと云ふんですが- 私はもう何十年も會つてゐない」じろさんがこゝでカンテラに耳打ちした。
じ「カンさん、『ベルゼブブ團』つて…」カ「し! 云ひたい事は分かる」
要はじろさん、ベルゼブブの名を借り、その金木と云ふ男が、愉快犯的に動いてゐるのではないかと、さう云ふ話をしてゐる。カ(ふむ、一考の余地はあるな。これもテオに調べさせるか、いや待てよ、坂上つたらつひ近所ぢやねえか。俺が踏み込んでもいゝな)
カンテラは貝原の盃に酒を差し、「よござんす。一應下調べに何日か下さい」貝「おゝ、働いて下さるか」カ「ま、氣になる事件との関連を探つてみやう、と云ふ譯ですがね。今日のところは仕事の話はこゝ迄」
【ⅴ】
テオは魔界でのベルゼブブの動きを捉へるのに掛かり切りだつたが、それでもカンテラ自ら金木の「ゴミ屋敷」に踏んごむのには叛對した。「それより僕が野良猫メイクで探つた方が、敵さんにも怪しまれないつスよ」カ「んま、氣が濟むやうにしてくれ」テ「僕もちやうど躰が鈍ナマつてたとこだし」
と云ふ成り行きで、テオは純白の毛並みを少し煤で汚して、數日間ダイエットの上、その「ゴミ屋敷」まで赴いた。
酷いものである。ごみ集積所の家庭ゴミが山積になつてゐて、庭は割に廣いのだが、立錐の余地もない。それと粗大ゴミの數々。窓は無防備だつたので、テオは危険を承知で侵入してみた。家の中には、蠅がうようよ飛び交つてゐる…蠅、か。テオは即座にベルゼブブを連想した。と、
「猫め! 私の財産に手を付けるな!」金木がボウガンを持つてこつちを狙つてゐる。ボ、ボウガン! これには偏執的なものが感じられるな、要注意人物、と心に記しながら、テオは命からがら「ゴミ屋敷」から逃げて來た。
【ⅵ】
その翌日、夜更けを待つて、カンテラとじろさんは坂上の「ゴミ屋敷」までやつて來た。
「ご免よ。邪魔するぜ」じろさんは黒装束。
「何奴だ!」ボウガンを構へる金木。「撃てるもんなら、撃つてみな」カンテラは挑發しつゝ、剣を拔いた。剣は、ぎらり、と夜目にも分かる光を放つ。金木がボウガンの弓を發射した、が、それはいとも簡單に、カンテラの剣捌きで地に払ひ落とされた。弓は眞つ二つに分断されてゐた。
そこでじろさんが無言で突進、金木の腕を捩ぢり上げた。「ぐわつ」
金木は捕縛された。
取り敢へず、適当な罪名で金木は警察の手に渡つた(大雑把だなあ・笑)。だが、これで濟んだ譯ではない。ベルゼブブだ。拘置所に見張りの特別人員が回されたが…。ふとした隙に、鉄柵の向こうから
「ぎやああつ!」金木の悲鳴が聞こえた。警備の者が急ぎ、駆けつけたが、緑色の液体がこぼれてゐるだけで、そこに金木の姿はなかつた。