雨と夜
由比良 倖

レコードショップで
つまらないレコード
を立ち聞きして
あなたに借りたマヨ
ネーズを返しに行く
私は不安に弱い
まるで虹の家にいる
よう
そのうち雨になって

私はひどく頭がいい
ので
雨と夜の関係図を鮮
明に画くことが出来

信じられないよ
あなたに人間並の心
理分析が通用するな
んてね

私は灰のように手が
白い
太陽に当たると露骨
に暴かれる
私の人形性
吐息がかすかに震え
てる
あったかい……

病院の待合室
テレビのワイドショ
ーの音が大き過ぎる
(……この雪で数々
の交通機関が麻痺…
…)
(……約1600人の
乗客が空港で一夜を
明かしました)
(……さん親子が生
き埋めに)
(……は捜索の打ち
切りの方針を明らか
に……)
耳の遠いひとが多い
のだろうか
暴力的なまでに甲高
い看護師の声

KID Aを聴いている
僕には関係ない
(靴下を履いてこな
けりゃよかったな)
鉢植えのコスモスが
淡い夜のペディキュ
アのように咲き誇っ
ている

私はひどく頭がいい
ので
雨と夜の関係図を鮮
明に画くことが出来
る……


歳を取る音が聞こえる
死に行く人たちが、
まるでエイフェックスツインのドラムループのように
空間と空間の折り目をたゆたっている
ベース音には骨が折れる音
心拍音の相貌はいつも平坦
で、そこにあるべき生命としてのディテールを常に失っている


僕は20歳
20歳というゴミ
ぼんやりと年老いて
いく音を書き付けて
いくと
こころを喪失した冬
の叫びがきこえる


幸せでいようとして、
そしたら急に泣き出したくなるんだ。
一人ぼっちになって、
ワインを飲んで
世界がむらさき色になり始めたら
前庭のブランコに跨って、
そしてそのまま死んじゃいたいなって……。


雨は夜をあからさまにする
夜は雨を精細に分析する
雨は夜を硬直させ、
夜は雨をあからさまにする……


自由詩 雨と夜 Copyright 由比良 倖 2025-02-02 15:28:17
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