梵鳥
中沢人鳥
風が撫でる葦原の先に
影が落ちる
夜明けの燈を孕んだ
鳥の瞳は
まだ濁っていない
羽音は
梵鐘の余韻に似て
打ち寄せる波間に滲む
彼方で鴉が啼く
誰の名を呼ぶ声か
一羽、また一羽
輪廻から離れたく
水面をかすめて飛ぶ
空には既に色がなかった
ただ青の気配が
漂うばかり
亡者の翳が長く伸びる
埋火のように残る
記憶の温度は
掌に掬われた灰の中で
なおも燃えている
読経の響く堂の軒下
羽を休める雀が
一つの塵を啄む
彼らは知っているのか
生と死のあわいが
こんなにも脆く
ほろほろ、
ほろほろと、
無音にほどけることを——————-----
風が吹く
塔の相輪に絡まり
葉を巻き上げる
砂が、灰が、経文が
流れるまま
鳥々は飛ぶ
僧侶の袈裟の色の
その、ずっと先へ