離散家族
栗栖真理亜

小さくちぎった新聞紙
丸めてバケツの水に浸す
指先から冷たさが伝ってきた
「新聞紙で窓を拭けば、綺麗になるよ」
そう教えてくれたのはかつてお世話になった教会牧師の奥さんだった

年末が近づくと「日曜礼拝の後は決まってみんなで掃除」だった
一階の集会所や二階の礼拝堂からは掃除機の音や楽しげな声が聞こえ
何だか賑やかだった
子供ははしゃぎ大人たちもそれにつられて笑顔となった

兄弟姉妹という枠組みでまるで家族のような関係
赤の他人同士が世代も生まれ育った環境も超え
ひとつとなっていた

牧師夫婦が引っ越してから新しい牧師が就任して
以前は許可されていたはずの駐輪自転車に
誰もが目を引くような大きな張り紙を貼られてから
私は一度も教会には訪れていない
ごく親しい姉妹とは年賀状のやり取りのみ
日曜日にふいに辺りを通りがかっても
誰もが疲れたような表情で俯いたままため息を吐き
まるで私のことなど目に見えていないよう

もはや私たちは皆
ボロボロにちぎられた新聞紙
手先を凍らすような濁り水にふやかされ
やがて繊維が溶かされ離散してゆく

教会敷地内の一画には
観光客向け有料レンタサイクルの駐輪場が
新たに設けられていた


自由詩 離散家族 Copyright 栗栖真理亜 2025-01-28 19:41:37
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