世界のなかの奇矯な私/私のなかの奇矯な世界
岡部淳太郎

私は何者なのか
その疑問からまずは始まる

私は この世界のなかで奇矯な存在だった
ずっとそう思っていたが
実は世界そのものが奇矯であり
私はそこに迷いこんでしまっただけなのではないか
そう疑い始めた

その間も
私は何者なのかという疑問が止むことはなかった

その「私」の存在を証すために
または 生きさせるために
世界は存在した
それを成し遂げられない「世界」など
私にとっては無価値でしかなかった
私の可能性がいくつもありえたのと同じく
いまの私を取り囲んでいる世界は
いくつもありえたはずの「世界」のヴァリアントのなかの一つでしかないとも思えた
その「世界」のなかに私は放りこまれて
迷っているに過ぎないのだ
私のなかで世界が地図を失くして
さまよっているのと同じように
私もまた 世界のなかの迷子に過ぎないのだと

そうして迷いながらも
私は自らが何者なのかと問いつづけていた
世界もまた 私のなかで
自分が何者なのかわからずに
問いを繰り返していた

私のなかの問いと
世界のなかの問いがぶつかって
混じり合う時
ほんの一瞬だけ風が吹いて
私のなかの
世界のなかの迷路の埃を吹き払ったように思えた
私の奇矯さと世界の奇矯さもまた混じり合い
私と世界の双方の疑問が
氷解するかに思えることもあったが
それはほんの一瞬のことで
私も世界も 次の瞬間には
おなじみの解けない疑問に立ち還るのだった

夜になると
私と世界の双方の上で星がまたたき
謎は永遠につづくかのように
思えるのだった



(2025年1月)


自由詩 世界のなかの奇矯な私/私のなかの奇矯な世界 Copyright 岡部淳太郎 2025-01-24 13:58:28
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